コラム

修行二日目|泰山の色を学ぶ

修行二日目――「色に名前がある」ということ

夏の終わり、蝉の声が遠くで続く工房で、泰山の“命”ともいえる釉薬置きの手ほどきを受けました。色にはそれぞれ名前があり、筆の角度と厚み、待つ時間がその名を呼び起こします。

釉薬という、時間の器

まずは手起こしの素地を前に、先生が静かに釉を撹拌する。器の内側で渦が立ち、粘度が目でわかるほどに整っていく
「しばらく使ってなかったからね」
瓶の中で長い眠りから醒めた泰山のくすり
呼び起こす
そんな儀式のような手順は長年の経験と勘で整えていく

この感覚を学びたい

一筆で面をつくる

素地は中央に柔らかな膨らみをもつ小さな正方。角を立て、面をつぶさない。往復して塗るのではなく、釉を置き、伸びたい方向へ行かせる。筆圧と呼吸がそのまま厚みの差になる。

釉薬は三度置くことになるのだが、釉薬の濃度、置く場所、タイミング、全てが経験からくる感覚で行うことになる


くすりの声に耳を傾ける

待つ時間が、仕事を仕上げる

釉を置いたら、次は待つ。乾きかけの時間帯は、手を出したくなる気持ちを抑える稽古でもある。音の少ない工房で、釉だけが静かに仕事を続けている。工房の下を流れる川の音と蝉の声、夏の終わり

名前を呼ぶという継承

泰山では色に名前がある。配合比だけでなく、手触りの記憶まで含んだ呼び名だ。声に出して呼ぶと、色が少しこちらへ歩み寄ってくる気がする。私の一筆のゆらぎが、やがて焼成で「その色の別名」になる――そんな予感がした。

新美術タイルという提案

完成品を届けるだけでなく、この時間そのものを体験として届けたい。釉の“最初の一筆”を職人の指導で体験し、待ち、受け取る。

『くすりは思い通りに動いてくれないんだよ』

先生の、この言葉の意味をこれから体験することになるのだろう

この日、一番強く感じたとこは
タイルという価値を届けるには、完成品を選んでもらうことではなく、この時間そのものを体験として届けたい。釉の“最初の一筆”を職人の指導で体験し、窯出し待ち、受け取る。
この時間こそが、タイルと過ごす最初の時間となるのであるから

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